メイドインジャパンの矜持。青海波があしらわれたMr.Gentleman EyewearのL字蝶番5型
2026/01/30
今回フォーカスするのは、Mr.Gentleman EYEWEARの代名詞である「細L字丁番」を搭載した新作5型だ。これら5型の鼻パッドには、日本の伝統文様である「青海波(せいがいは)」があしらわれている。
これは単なる新作の発表ではないのかもしれない。ブランドがこれまで築き上げてきた美意識と、現代における「メイドインジャパン」への回答が凝縮された、マニフェストとも呼ぶべきコレクション。なぜいま、彼らは改めてこの意匠を刻んだのか。その深層に迫る。
メイドインジャパンを再度問う
「Made in Japan」という言葉は、いまやかつてのような魔法を失いつつある。
それはメガネの世界においても同様で、その表記はありふれたものとなった。だからこそ今一度問いたい。私たちは、本当にその言葉の真実を理解しているだろうか。そして、その刻印をどこまで盲目的に信じていいのだろうか。
現在、メガネにおける「メイドインジャパン」は、法的な厳密さよりも業界の慣習に基づいて運用されている側面がある。部材の一部、あるいは最終組み立てのわずかな工程が国内で行われていれば、その表記が許されるケースも少なくない。消費者が期待する「純国産」のイメージと、実際の製造現場には、少なからぬ乖離が存在しているのが現実だ。
つまり、「細部まで完全に日本で作り込まれている」と胸を張れるプロダクトは、市場において驚くほど稀少。この事実を直視すると、私たちは一度、言葉への安易な信頼を手放さざるを得ない。では、真の価値はどこに宿るのか。Mr.Gentleman EYEWEARの新作5型は、その問いに対するアンサーのようなものでもある。
プロセスを開示する、という誠実
Mr.Gentleman EYEWEARが今回選んだのは、これまでの「日本製」の定義を覆すような選択だった。彼らがパートナーに選んだのは、中国資本でありながら日本国内に大規模な拠点を構え、最新鋭の設備を導入した工場である。
ここで重要なのは、資本の国籍ではない。「誰が、どのような思想で、どのように関わったか」というプロセスそのものだ。
デザインは日本人が行い、機械のプログラミングを日本人が管理し、熟練の職人が一本一本、手作業で最終調整と磨きをかける。そこにあるのは、日本人が培ってきた精緻な美意識と、最新テクノロジーの融合だ。
「どこで作ったか」という記号よりも、「どう作ったか」という熱量を優先する。そのプロセスを開示し、誠実に語ることこそが、情報の氾濫する現代における“信じられるものづくり”の正体ではないか。今回の新作群は、その姿勢をはっきりと示している。
鼻パッドに託した祈りの意匠「青海波」
そして、今回の新作5型すべてに共通する意匠が、鼻パッドに刻まれた「青海波(せいがいは)」である。 この文様は、広い海がもたらす恩恵を表し、果てしなく続く波の様子から「平穏な暮らしがいつまでも続くように」との願いが込められている。また、水は古来より「清め」の象徴であり、邪気を払い、心身を整える意味も持つ。
なぜ、鼻パッドという、掛けてしまえば見えなくなる場所にこの文様を選んだのか。そこにこそ、日本的な「控えめな美学」が宿っている。
見えない場所にこそ手を抜かず、自分だけが知っているこだわりとして祈りを忍ばせる。それは、流行に左右されず、自らの内面を整えるために眼鏡を纏う、Mr.Gentleman EYEWEARの精神そのものだ。
5つのモデルと、5つの距離感
今回のコレクションを構成する5つのモデルは、それぞれが異なる表情を持ちながら、共通の哲学で貫かれている。ここにひとつずつご紹介しよう。
• WALTER
20〜30年前のオーセンティックなスタイルを再解釈した、横長のオーバルシェイプ。かつてはありふれていたはずの形が、現代の解像度で再構築されることで、抗いがたい新鮮さを放つ。ノスタルジーとモダンが理想的な交点を結んでいる。
• LIV
シリーズで唯一、明確に女性の表情を想定して設計された。柔らかな曲線の中に、一本通った芯のような意志を感じさせるライン。顔立ちに寄り添いつつも、掛ける人の知性を静かに際立たせる、優美なモデルだ。
• WILL
フロントトップのフラットなラインが目を引く。クラシックな定石からわずかに逸脱したその「違和感」が、知的な刺激を生む。平凡であることを拒みつつ、日常に馴染む絶妙なバランス感覚は、まさにブランドの真骨頂と言える。
• BEN
一切の無駄を削ぎ落とした、引き算の極致。素材の質感と、1ミリ単位で計算されたシルエットだけで“大人”を語る。トレンドが過ぎ去った後も、クローゼットの特等席にあり続けるであろう、普遍的な美しさがここにある。
• HEMINGWAY2
ジャーマニーシェイプをルーツに持ちながら、レンズ下部の絶妙なふくらみが愛嬌を添える。クラシックでありながら、どこか「ナード」で親しみやすい。いまを生きる世代のスタイルに、静かに浸透する新しい定番の形だ。
「メイドインジャパン」という価値観への挑戦
Mr.Gentleman EYEWEARが今回の新作を通じて提示したのは、「日本製だから良い」という思考停止の価値観への挑戦状だ。
産地やブランド名というラベルを剥ぎ取った先に、何が残るのか。
そこには、徹底的に考え抜かれた構造があり、最新の技術があり、そして使い手の平穏を願う青海波の祈りがある。
新作である前に、ひとつの思想の結晶であること。
だからこそ、このメガネたちは、手にした瞬間に使い手の生活に溶け込み、気づけば「こればかり」を手に取る日常の一部となっていく。
波の文様が絶え間なく続いていくように、このメガネと過ごす時間もまた、静かに、しかし豊かに積み重なっていく。そんな未来が、容易に想像できるのである。
山田ルーナ - 文


