DIFFUSER|デザイナー広瀬氏のものづくりと、2021年。
2021/12/27
あと何日かで、今年も終わる。
2021年。皆さまにとって、どのような年だったろうか。
世界中がコロナに見舞われ 色々なことがイレギュラーで、思うようにいかなかったと振り返る方も多いかもしれないが、その中でも小さな喜びを見つけ、そしていま、穏やかな年末を過ごされていることを願う。
今回の記事では一年の振り返りとして、『Joy every time Inc.』の代表であり〈DIFFUSER(ディフューザー)〉のデザイナーである、広瀬雅規氏の言葉をご紹介したい。
こたつに入りながら、みかんでも食べながら。グラスコードにメガネをかけて、どうぞゆっくりご一読ください。
|〈DIFFUSER〉デザイナー広瀬雅規氏 - Designer Masaki Hirose
〈DIFFUSER〉が纏う アイウェアユーザーの想い
筆者の個人的な話になってしまうが、今年最初の仕事は、このウェブサイトのコラム執筆だった。
だから自身の今年の仕事を振り返るときには やはり、『Joy every time Inc.』が展開するブランドの存在は切り離せない。
月に3本ほど執筆させていただいたこの記事は、主にアイウェアやアイウェアアクセサリーをテーマとしてきたわけだけれど、普段からメガネを愛用している方だけでなく、ファッションとして興味を持ちはじめた方まで、多くの方にお読みいただいたのではないだろうか。実際 最初から欠かさずお読みくださっている方もいると聞き、ライターとして とてもありがたい気持ちでいる。この場を借りて、御礼申し上げます。
さて、そういうわけで、『Joy every time』に深く関わらせていただいたこの一年。
筆者が特に強く感じたのは、〈DIFFUSER(ディフューザー)〉がファンから受ける愛情の深さだった。
もう説明は不要かもしれないが、〈DIFFUSER〉とは、2012年にスタートしたアイウェアアクセサリーブランドである。メガネやサングラスなど、ファッションアイテムとして選択肢の多いアイウェアに比べ、その関連グッズが魅力的ではないという今までにない視点から、メンズファッションを切り口として、男性に向けグッズを展開している。
その魅力を端的に表すために、筆者が最初に書いた記事(「あったらいいなを叶える、ディフューザーのアイウェアアクセサリー」)から、以下の文章を引用することとしたい。
"そのルックを初めて見たとき、おしゃれなレザーブランドの紹介かと、私は思った。しかしそれは、ただのレザーブランドではなかった。レザーウォレットに見えたものは、メガネケース。レザーのブレスレットに見えたものは、グラスコード。つまり、アイウェアアクセサリーのルックだったのだ。"
ファッションブランドさながらのお洒落なアイテムを展開する、アイウェアアクセサリーブランド。
〈DIFFUSER〉は、アイウェアユーザーの「こんなの欲しかった!」を、そのイメージ以上のものとして発表し続けている。
無駄のないスタイリッシュな見た目からは、並々ならぬデザインへの想いと愛情を感じ取ることができるのだが、デザイナーとしてのこだわりについて広瀬氏に尋ねると、その答えは案外あっさりとしたものだった。
「僕は素材を整えていくだけですよ。算数のように足したり引いたりしながら、もっとも実用的で、心ときめくポイントを探る。どうしたら使い手が価値を感じるのかを考える。その結果が、ああいった見た目のアイウェアアクセサリーなんです」
デザイン画を描くのではなく、素材を組み合わせることでデザインを生み出すタイプだと話す広瀬氏。
それはデザイナーというより、あるいは設計士という肩書きの方が、感覚としては近いのかもしれない。
しかしその客観的なものづくりゆえに、ファンが信頼し愛情を注いでいるというのも事実のようだ。
次に、多くの人を魅了する広瀬氏のものづくりについて、もう一歩踏み込んでみたい。
デザインか、設計か
先のとおり、設計士のようにデザインを組み立てていく広瀬氏。
ものづくりにおいて大切にしていることは、「よく観察すること」だという。
「さまざまなものを日常的によく観察しています。そしてそれらの記憶を断片的に繋ぎ合わせ、製品を作っていきます」
どうしたらもっとも使いやすいと感じるのか、美しいと感じるのか、自身の記憶を頼りに感覚を再現していく。結果生まれる実用的なアイテムたちは、究極に実用的であるからこそ美しく、それはまさに「用の美」ともいえるだろう。
まず自分が使いやすいと感じるものなのだから、ご自身でもやはり愛用しているのだろうかと尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「実は、自分がデザインしたものを使うことってほとんどないんです。もちろん検証するために使うことはありますが、自分が使いたいから作るのではなく、価値を提供したいから作る。なので一つの製品を生み出したらそれで終わりで、自分の思考はすぐにまた次の新しいものへと移るんです。もちろん、だからといって思い入れがないわけではなく、全てのアイテムに思い入れがあります。僕の興味は、それに自分が満足できるかでなく、それが人にどう伝わるかというところです」
デザインに対する想いやその過程を聞き、筆者は最初その淡々とした様子に驚いたが、しかし話を聞き進めていくと、それはむしろブランドの強い覚悟と深い愛情ゆえなのだと感じた。
〈DIFFUSER(ディフューザー)〉というブランド名は、「拡散する」という意味をもつ。
広瀬氏とブランドの願いは、カッコいいアイウェアアクセサリーを求める世界中の人々に、〈DIFFUSER〉のアイテムを新しい常識として届けること。
より広く遠くへ「拡散する」ためには、内でなく外へ向く、確かな視野が必要だ。
どこまでも客観的で冷静なその視線は、熱い志を拠り所として、"Realist"であり同時に"Dreamer"でもあるような、相反する魅力を湛えていた。
日本の「用の美」世界へ拡散する
2021年を語る上で、コロナの問題は避けられまい。世界の多くの地域でロックダウンが行われ、日本もまた同様に厳しい時期を過ごした。その影響は色濃く、この業界にもまた大きな打撃を受けている。
しかしこの状況下でのブランドの立ち位置について伺ったところ、ポジティブな意見を聞くことができた。
「コロナ前の2019年秋。〈DIFFUSER(ディフューザー)〉は、フランスでの世界最大の眼鏡見本市『シルモ展』へ初めて合同出店しました。その勢いのまま、2020年には単独での進出をしようとしていたところでしたので、強制的にブレーキをかけられたような感覚ではあります。小売マーケットの冷え込みは激しく、確かに私たちは大きな影響を受けました。ですが、この一年は厳しさに耐える一年ではなく、投資をするのに良い機会になったと感じています。その対象は設備やお金などではなく、人間関係です。関わってくださる全ての人に対して、以前よりも深く向き合えるようになりました」
取引先、海外エージェント、外注先。一旦立ち止まり、ブランドを支える人々と、深く向き合う時間に費やした2021年。
もちろん世の中は100%の状態ではなかったけれど、人間関係に投資したことが実り、〈DIFFUSER〉にとっては充実した一年になったという。
最後に広瀬氏は、こう結んだ。
「この数年は世界的に厳しい経済状況ですが、そのような中でも〈DIFFUSER〉は良い結果を出すことができました。これも関係各社の皆さま、そして日頃頑張ってくれている弊社スタッフあっての結果です。だからこの2021年は、全ての人に感謝した、ありがたい一年でした」
ブランドは、来年10年を迎える。広瀬氏曰く、やっとスタートライン。世界中の眼鏡屋に〈DIFFUSER〉のアイウェアアクセサリーを届け、その価値を変えていくために、この静かに燃えるデザイナーの物語は、始まったばかりだ。
山田ルーナ - 文