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モダン・ラグジュアリーへのアンチテーゼ。オーストラリア発「DAIZO」がアイウェア界に放つ、古き良き記憶【前編】

モダン・ラグジュアリーへのアンチテーゼ。オーストラリア発「DAIZO」がアイウェア界に放つ、古き良き記憶【前編】

2026/07/10

去年の秋に産声を上げたばかりのオーストラリア発のアイウェアブランド、「DAIZO(ダイゾー)」。

 

現在、フランスやドイツを中心に感度の高い層から着実に支持を集め始めているこの未知なるブランドが、このたび、日本を起点に台湾や香港といったアジア圏へ向けて、その最初の下地を作るための静かな一歩を踏み出した。誰もまだ見たことのない、しかし確実にこれからのシーンを揺るがすであろう異端児の魅力を、二記事にわたりどこよりもたっぷりとお届けしていこう。

高級アイウェアが陥った「モダン」の罠

世界の高級アイウェア市場は、いま一種の飽和状態にあると言えるだろう。作りや素材にこだわり、10万円以上のプライスタグを掲げるラグジュアリーブランドも少なくない。しかし、それらの多くを一堂に並べたとき、ある共通の既視感に気が付く。どれもが洗練されていて完璧で、しかしそれゆえに、どこか冷徹な「モダン」の枠に収まっているのだ。

 

美しくはあるが、胸を熱くするような個性に欠ける……。そんなアイウェアの現状に、全く異なる角度から鮮烈な一石を投じるのが、この「DAIZO」だ。彼らが提示するのは、巷に溢れるエッジィなモダンではない。それは、確かな存在感と職人の体温が同居する、血の通ったクリエイションだ。

トムフォード、クロエを経て辿り着いた「原点」

ブランド名の「DAIZO」とは、ドイツと日本の血を引くデザイナー、Leonhard Daizo Bachmannの和名(ミドルネーム)。そのクリエイションの底流には、ヨーロッパとオーストラリア、そして日本を結ぶ、非常にリッチなカルチャーの混交があった。

 

彼にとっての美意識の原体験は、母方の父である実の祖父にある。その祖父とは、日本の映画黄金期を支えた高名な映画の美術監督。映画のセットや大道具が職人たちの手作業によって形作られていくのを、幼少期から肌で感じて育ったLeonhard。それはいわば本物の「ものづくりの現場」であり、その経験こそが、彼のクリエイティブの遺伝子に深く刻み込まれているのだ。

そんな彼のファッションキャリアのスタートは、イッセイミヤケグループを代表する伝説的なドメスティックブランド「TSUMORI CHISATO(ツモリチサト)」だった。ここで日本独自の繊細な色彩感覚とファッションの基礎を学んだあと、ヨーロッパへ。「TOM FORD(トムフォード)」や「Chloé(クロエ)」といった世界最高峰のモード・ラグジュアリーで、ブランド設立までの経験を積んだ。

 

一方で、彼のパートナーであり共にブランドを支える妻もまた、イギリスを代表するブランド「VICTORIA BECKHAM(ヴィクトリア・ベッカム)」のデザインチームで腕を磨いた超一流のファッション畑の人間である。

 

これ以上ないほどの華々しいキャリアを積んできた彼らだが、だからこそ、効率化された現代のラグジュアリーが失いつつある「職人の体温」や「プロダクトとしての凄み」を渇望したのだろう。あらゆるトレンドを通過した二人が、自らのアイデンティティを証明するために、最終的に行き着いた原点。それが、このアイウェアブランドなのだ。

デジタル全盛の時代に、すべてを「手描き」で起こす理由

「DAIZO」のデザインプロセスを知れば、彼らのプロダクトがなぜあれほどまでに有機的で、血の通った佇まいをしているのか、すぐに理解できるだろう。

 

現在多くのアイウェアデザイナーは、パソコンのCADソフトを使って三次元的にデザインを構築する。効率的で、左右対称の完璧な図面がすぐに出来上がるからだ。しかし「DAIZO」はそれに真っ向から逆行し、すべてのデザインを「手で絵を描くこと」から始めている。

 

紙の上に鉛筆を走らせ、線を何度も引き直し、人間の顔の曲線に馴染む絶妙な違和感や温かみを削り出していく……このアナログな手法から生まれるフレームに宿るのは、コンピューターでは出せない「肉厚の強弱」による、圧倒的なオーラ。一度手に取れば、顔に乗せれば、その静かな凄みを実感できるはずだ。

私たちがDAIZOのプロダクトに見出す、昭和の道具感

そのようなプロセスを経て生み出される「DAIZO」のアイウェアだが、そのデザインのインスピレーション源はなんだろう。ヒントになりそうなのは、デザイナー本人が好きだと語っている「1970年代独特の雰囲気」かもしれない。

 

確かに、彼らのプロダクトには、古き良き昭和の道具を彷彿とさせるような何かがあるのだ。

まだデジタルが未成熟だった昭和の時代、ものづくりの現場には、常に「人間の手」が介在していた。壊れないようにと必要以上に厚く盛られた金属の重み、手で触れたときに馴染むようにと職人が感覚で削り出した不均一な曲線、あるいは古いカメラやオーディオのダイヤルを回したときのカチカチとした確かな手応え。さらには彼の原風景にある映画美術も、その一つかもしれない。それらは単なる工業製品を超えて、使うほどに愛着が湧く「相棒」のような説得力を持っていた。

 

「DAIZO」のアイウェアがまとう雰囲気は、あの時代のプロダクトが放っていた「血の通った道具感」にとてもよく似ている。日本人の私たちだからこそ、昭和のロマンとシンクロさせて楽しんでみるのもおすすめだ。

続く後編では、プロダクトが持つ圧倒的な説得力に、もう一歩踏み込んでみたい。狂気的とも言えるディティールへのこだわりから、世界限定300本という数字に隠された秘密、そしてここ日本からじわじわと動き出すアジア展開の裏側まで、その魅力の核心に迫る。(後編へ続く)

山田ルーナ - 文

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