「ツインブリッジ」で人と人との繋がり描く。Mr.Gentleman EYEWEARの集大成的最新作
2021/11/08
この秋、『ミスタージェントルマンアイウェア(Mr.Gentleman EYEWEAR)』待望の最新作が発表された。今回ご紹介するのは3型。「JOHNNY」と「LEONARDO」、そして「JULIETTE」だ。同じコンセプトのもとデザイン違いで展開される これらの最大の特徴は、「ツインブリッジ」と名付けられた繊細で美しいブリッジ。デザイナー自身 数年に一度と語る大型新作は、どのようにして生まれたのか。『ミスタージェントルマンアイウェア』らしいその製作秘話をお届けする。
90年代を代表する青春映画の名作
これまでもいくつかの記事でご紹介しているように、『ミスタージェントルマンアイウェア(Mr.Gentleman EYEWEAR)』は、広島県のオプティカルストア〈SENSE〉のオーナー高根俊之(こうね・としゆき)氏による日本のアイウェアブランドである。スタートは2012年。『憧れを生み出す物』をコンセプトに、高根氏が触れてきたミュージシャンや俳優、映画などをデザインのインスピレーションとしたアイウェアは、いち眼鏡屋が始めたブランドという枠を超え、一流ブランドと比肩するクオリティで世界中にファンを増やし続けている。
アイウェアにはそれぞれ、ミュージシャンや俳優、作家など、高根氏に影響を与えてきた人物の名前がつけられることが多い。今回の新作3型もそうだ。「JOHNNY」は、ジョニー・デップ。「LEONARDO」は、レオナルド・ディカプリオ。そして「JULIETTE」は、ジュリエット・ルイス。
この3名の名前を見てハッとした方は、きっと相当な映画好きだろう。
そう、この俳優たちは、1993年公開の映画『ギルバート・グレイプ』で主要人物を演じた3名だ。
この映画は、いつの時代も変わらない家族愛の物語であり、主人公ギルバート・グレイプの成長物語でもある。 ギルバート(ジョニー・デップ)の家族は、知的障がいをもつ弟アーニー(レオナルド・ディカプリオ)と2人の姉妹、そして過食症で引きこもりの母。ギルバートは狭い田舎町の中で、家族の世話と仕事とをくり返す日々を送っていた。そんな中、トレーラーハウスで旅をする少女ベッキー(ジュリエット・ルイス)が町にやってくる。そしてこの出会いをきっかけに、ギルバートは自分の人生を見つめ直し、想像もつかなかった希望を見出していく・・・
筆者も今回の『ミスタージェントルマンアイウェア』新作をきっかけに、映画を思い出し、観直してみた。 実に人生の希望に満ちたヒューマン・ドラマだ。そして役者陣の名演が光る。ジョニー・デップは優しい眼差しに憂いが潜み、レオナルド・ディカプリオはどこまでも愛らしく無垢。そしてジュリエット・ルイスの自由で透き通った美しさ。
劇中ジュリエット・ルイス演じるベッキーが、あるシーンでギルバートに言う。「何をするかが大事なのよ」…淡々とした静かな映画ではあるが、彼らの心の交流や感情の機微は 誰しもが経験したことであり、そのために印象深い作品となっている。
さて、メガネの話に戻ろう。
デザイナーはこの映画について明言していないが、筆者は『ギルバート・グレイプ』で描かれていた人と人との繋がりこそ、今回の新作のデザインの要ではないかと思っている。
実際高根氏は、こんなことを話していた。
デザイナー高根氏が6年間想い続けてきたこと
『ミスタージェントルマンアイウェア(Mr.Gentleman EYEWEAR)』のデザイナー高根俊之氏は、今回の新シリーズを「人と人をテーマにしたデザイン構造。」なのだと語る。
高根氏の言葉を、ここに引用したい。
「以前から、人と人との関係・繋がりみたいなものをデザインとして落とし込めないかを考えていました。」
つまり、『ミスタージェントルマンアイウェア』のメガネやサングラスのいくつかに見られるように、クラシックなアイウェアをもとに現代の技術でリデザインするような手法ではなく、イメージそのものをデザインに落とし込めないかを考えていたというのだ。
表現しようとしたのは、人と人との繋がり。
それは幼い頃に出会った映画の人間模様…兄弟やカップル、友達、夫婦…なのかもしれないし、実際に自身が経験した関わりなのかもしれない。
高根氏はこのデザインの完成に、およそ6年ほどの歳月をかけた。『ミスタージェントルマンアイウェア』というブランドの歴史の半分以上におよぶ時間だ。
しかし妥協は許さず、期限も設けずに、高根氏はイメージにぴったりはまるデザインを追い求めつづけた。 そして いくつものアイデアをボツにし、試行錯誤を経て完成したのが、この3型だ。
最後までこだわり抜いたのが、3型に共通する印象的なブリッジ。
独立した華奢なベータチタンのパーツが2つ、それぞれの弧を描き、レンズを繋いでいる。
このブリッジを高根氏は、「ツインブリッジ」と名付けた。
交わりを表現した「ツインブリッジ」
「「ツインブリッジ」と名づけた3型共通のブリッジ構造は、二つの異なるパーツを組合せ、一つのデザインを完成させています。一見交わっている様で交わっていない、個々の独立したパーツが織りなす造形美は、私が思う、人と人との関係性を表現する事が出来ました。」
『ミスタージェントルマンアイウェア(Mr.Gentleman EYEWEAR)』のデザイナー高根俊之氏は、こう話す。
「4点留め」と呼ばれるブリッジの留め方はアメリカで元からあった技術だが、それを応用し、オリジナリティあるものにできないかを高根氏はずっと考えていたそうだ。
実際ブリッジを前後に組み合わせているようなデザインは他ブランドにもあるが、この新作のような繊細で美しいデザインはまず見られないだろう。
実際つけ心地も軽く、顔にのせると主張が和らいで、意外と合わせやすい。
「ツインブリッジ」に用いた素材は、粘りのあるベータチタン。そのためフィットしやすく、見た目にもかけ心地にも、人に馴染むデザインに仕上がっている。
この細さとカーブに至るまでに、いくつものデザインを描いたという高根氏。
どちらかがもう少し太くても、どちらかがもう少し真っ直ぐでも、だめだった。
同じ線の細さで、異なる方向に曲がっているからこその、ハーモニー。美しさ。
私たち人間が、ときに手を取り合い、ときに異なる意思をもち、しかしどうしたって同じ明日を迎えるように、断ち切れないかけがえのない繋がりが、この繊細な2本の線で表現されているような気がした。
そして「ツインブリッジ」が繋ぐのは、モデルごとに異なるかたちのレンズである。
「JOHNNY」は、丸みのある卵型。
「LEONARDO」は、上部の直線が印象的なクラウンパント。
そして「JULIETTE」は、華やかさをもつ多角形。
細部の仕様や配色などについて、高根氏はこう語る。
「リムは通常タイプより角を落としたタイプを使用し、インナーリムも、中のリムが少し見える様に細身形状にして、全体的に少し繊細に見える様に致しました。ブリッジやテンプルエンドの配色にもぜひご注目下さい。」
高根氏が話すように、先の「ツインブリッジ」は配色にも注目したい。 それぞれのカラー展開ごとに、異なる組み合わせがされた「ツインブリッジ」。シルバー×マットブラックや、ピンクゴールド×シルバーもあれば、ゴールド同士のものもある。
これもまた、私たちに近い。
私とあなたや、あなたと誰か。あるいは誰かと誰か。どこか似ていて、どこか違う私たちの繋がりを、この新作は真摯に描く。
|左から「JOHNNY」「LEONARDO」「JULIETTE」
長く続く名品として
各パーツが支え合い、ひとつの芸術のような美しさに仕上げられたこのシリーズ。 長い年月を使ってつくられた3型は、集大成と言っても過言ではないだろう。
しかし『ミスタージェントルマンアイウェア(Mr.Gentleman EYEWEAR)』の歴史は、まだまだ続く。
「ツインブリッジ」を用いた新作は、早速海外からも別注のオファーが来ているようだ。長く続く名品として、今後さらにどのような展開がなされるのか、その行く末を楽しみにしたい。
「ツインブリッジ」は、あなたが想像するあらゆる繋がりを映すだろう。 このメガネの細部に希望を宿して、心躍らせていただけたら。そしてこのメガネをとおして、また新しい繋がりが生まれたなら。そんなに嬉しいことはない。
デザインとかけ心地が良いだけじゃなく、すてきな想いがこもったアイウェアを身につけて、いつもよりちょっと遠くまで、出会ったことのない景色を見に出かけたくなる。
さいごに『ギルバート・グレイプ』の台詞を引用して記事を終わりたい。
「アーニーはどこに行くのかと聞いた。僕は言った。行きたいところには、どこへでも行けると」
山田ルーナ - 文
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